ちわきにくおどる

そんな気持ちにさせてくれ

オートフィクションーきみの片鱗を探すー

告知がない。

それだけで生きる意味を失いかける。

いや推しは生きてるし、まだ事務所に所属しているから仕事はある。

でも告知がない。

それだけで生きる目標を失う。

 

ツイッターを開いてタイムラインをさかのぼる。

推しの新しいツイートはない。

 

 

最後の現場から3か月。あれから推しの次の仕事情報が入ってこない。もともとSNSの更新頻度は低く、舞台の稽古から本番までの間くらいしかない。あとは仲のいい役者仲間のSNSに映り込むくらい。たまになにかの撮影があれば待ち時間に撮った自撮りをあげてくれる。それくらい。

ツイッターを始める前に開設されたブログはスタッフの告知しか記事がないし、ツイッターの後に始めたインスタはスタッフが撮影のオフショットを載せてくれるしかない。たまに本人が実家の猫をストーリーにあげてくれる。実家埼玉だもんね。

 

なにもすることがない休日が訪れる度に虚無を感じてしまうので最近はもう休日も働いていたいと思う。働いて金を貯めたい。なにも予定のない休日に向けて出勤する平日も目標がなくて虚無を感じてしまうが。

 

現場がないので久しぶりにオタクではない友達と遊ぶことができた。こちらが毎回断ってしまうのに、それでも会ってくれるので感謝だ。半年ぶりくらいに興行収入上位の洋画を観て、ショッピングを純粋に楽しみ、カフェでとりとめもない話をした。普通の休日を過ごせた。

それでも洋画を観ている時に推しが好きだと言っていたハリウッドスターを見て彼のことを思い出すし、ショッピング中にメンズ服を見て推しの好きなブランドの新作をチェックしてしまうし、カフェはずいぶん前に推しが友達と一緒に行ったお店が近かったのでさりげなく選んで、さりげなく同じカフェオレを注文した。

 

現場がないのでチケットが死ぬほどはけないオタクの友達に招待されて舞台を観に行ったりもした。初めて観るのに驚くほどつまらなくて、暗転の度に寝そうになった。観劇後その友達と居酒屋で延々と舞台の悪口を言い合った。

推しは出ていないけれど、共演した俳優が出てくる度に推しのことを思い出した。推しが出た今まで一番つまらなかった舞台のことも思い出した。ほんとうにつまらなかったけど、衣装の出来だけは素晴らしかったことを思い出した。あの衣装はほんとうに似合っていた。帰り道にカメラロールをさかのぼって久しぶりにその時の衣装での自撮りを見た。

 

会社の人と推しとお父さん以外の男の人と会話をしていなかったので街コンに行った。隠すのもめんどうなのでプロフィールの趣味欄に舞台鑑賞と推しの名前を書いた。一人だけ趣味について質問をしてくれた男がいたので一番有名な原作付きの舞台に○○役で出ていたと説明をしたら、その舞台に関するネットスラングを返された。そのスラングはどちらかというとクオリティを卑下するものでわたしは嫌いだったので「まぁそんなネタもありますね」と苛立ちを隠して返事をしたつもりだったが予想外に盛り上がらない反応に相手は難色を示し、空気が少し重くなったままグループチェンジになった。

男性陣が入れ替わる度に推しの顔を思い出した。整った顔立ちをしていると改めて思った。今日だけで十数人の男性と会ったが彼の足元にもおよばない容姿の人しかいなかった。まず骨格の造りから違い過ぎる。当然といえば当然だが。

 

珍しくわたしが暇なので、友達が合コンにも誘ってくれた。こちらも断り続けていたので誘ってくれることに驚いた。人生で3回目か4回目の合コンだった。事前に了承を得て、好きな俳優がいる話をした。話題を振られたら答えたが、振られない限り趣味の話はに控えた。すると自分でも驚くほど話す話題がなかった。ここ数か月は推しの仕事がないので何にも興味を持てず、会社と家の往復で虚無感を感じてすぐに寝てしまうので何も話せることがなかった。推しの仕事があったらあったで、その話しか話すことがないので趣味が合わない人にとって結局は同じことなのだが。

最初に自分の趣味を説明した後、推しのことを思い出してしまい適当な相槌を返しながら頭の片隅で推しのことを思いながら2時間半ビールとハイボールを飲み続けた。合コン終わりにグループラインに招待されたが、個人から声がかかることはなかった。

 

推しはいないが興味のある舞台にも行けた。現場がある時は推し以外の舞台に行けることが少なくなるので、自分の好みの作品をたくさん観ることができた。ここ数か月の間で唯一、趣味を楽しめる時間となった。

以前、推し目当てにいった舞台と同じ劇場に行くと彼と彼の出演した舞台を思い出してしまうが。

数日後、事務所の先輩が出ていたとかで推しも同じ舞台を観に来ていた。先輩がその日観劇に来てくれた仲間や先輩後輩との集合写真に後方のセンターで写っていた。推し本人から観劇したという投稿はなかった。それでも久しぶりに姿を確認できたので、かろうじて生きる活力が湧いた。

 

今週末はなにも予定がない。久しぶりに推しの出演作のDVDでも見返して過ごそうかと思う。

 

一番更新頻度が高いツイッターを開く。

タイムラインをさかのぼる。

推しのツイートはない。

推しのホームに飛ぶ。タップする。

推しの新しい投稿はない。

3か月前の舞台の千秋楽翌日に投稿した舞台終幕の報告とお礼のツイートが最新の投稿だ。

 

今、彼はなにをしているのだろう。

オーディション?レッスン?ボイトレ?ワークショップ?バイト?実家で猫と遊んでる?飲み会?クラブ?合コン?女とデート?女と旅行?

考えたくもないし、普段考えないようにしているはずのことまで考えてしまう。

 

3か月間、今日まで何も告知がないということはあと数か月は舞台等の仕事はない。イベント系の仕事なら一か月後の告知になることはあるが、ここ一年、バースデーイベント以外そういった類のことを事務所は企画していない。あきらかにイベント系の仕事をするような俳優としての旬は過ぎているし、売り方の方向性も違う。

他担の友達には来年頭まで仕事が決まっている子もいる。まさかこのまま年内はなにも仕事がないまま終わってしまうのではないだろうか。このあと仕事はあるだろうか。芸能活動を続けてくれるのだろうか。

考えたくないことを考えてしまう。

 

ベットに寝転んだまま、スマホのロックを開く。ツイッターアプリを立ち上げる。

推しのホームをタップ。投稿はない。