ちわきにくおどる

そんな気持ちにさせてくれ

オートフィクション~認識の距離~

 

「それは現実じゃないよ」

 

は?いやいやいやいや。何言ってんの。確かに起こったことだって。だって現に、わたしは全公演観に行って、毎公演手紙で感想を伝えていて、そしたら向こうが舞台後のイベントで『毎日手紙書くの大変だったよね。ありがとう』って言ってくれたんだよ。幻聴ではないし、わたし個人に面と向かって言ってくれたんだよ。わたしも推しも正気だよ。正気ではないけど。

 

「そのファンサービスはすごいけど、あくまでファンとしてでしょ」

 

ファンサ以外に何があんの?ただわたしはファンとして推しにしたいことを好き勝手にやって一方的に手紙を送り続けて、こんなの読む暇ないだろうな、あったとしても疲れて一刻も早く休みたいだろうし時間を取らせてしまって申し訳ないな、でも毎公演伝えたいことはあるから手紙は書きたいしファンなんだからそれくらい自由にさせてくれたっていいじゃん!読まれなくたっていいし!嘘!せっかく書いたんだから流し読みでもいいから目を通してほしい、内容なんて一瞬で忘れたって構わない、とにかくあなたのことを一生懸命追っている人間が一人いることを伝えたい、でもそんな自己顕示欲に付き合わせてしまうのは申し訳ないからなるべく手短にまとめるようにするよ、そしてほんの一瞬でも応援している気持ちが届いて励みになることを願ってる!でも疲れてたら読まないでいいよ!と解答のない自問自答を繰り返しながら自己満で送りつづけた手紙というのを理解した上で出しつづけたんだよ。推しに認められたいわけではなくただただ自分が満足するためだけに手紙を書いたことはわかってるし。その上で彼はわたしに声をかけてくれたことがうれしかったんだよ。

 

「いやー、気持ちはわかるけど、もう普通の男の人とか興味ないでしょ」

 

『気持ちはわかる』なんてよく言えますね。ほんとにわかってんの?わたしのこと、いい年して芸能人に恋してる、身の丈に合った恋愛ができないバカ女だと思ってるでしょ。普通の男、って何?あんたたちの彼氏のことか。まぁ普通の男だよ、芸能人ではないし。てゆーかいつから普通の男の話に変わった?今か。わたしはこの前あった、推しとのウルトラハッピーな思い出について話しただけでこれは恋バナではないんですけど。ただのうれしい思い出を話しただけ。気持ちがわかるなら、なんで普通の男に興味があるかないかに話がつながるん?別に羨ましがってほしいわけじゃなくて、いやちょっとはあるけど、すごいねー、とかよかったじゃーん、とかできる推しだねーとかで終わらせればいいじゃん。何?フツウノオトコノヒトトカキョウミナイデショ、って。

 

「楽しいのはいいと思うんだけどさ。でもあんまり顔のいい人たちばっかり見てると普通の人とか好きになれないでしょ」

 

はぁ、まぁ、彼は一般男性に比べたら顔立ちは整っていますが、それだけじゃなくて仕事熱心で今話したようにファン想いなところが好きだし尊敬しているから応援しているのであって、特に付き合いたいとかそういう願望はほとんどないですね。まぁそんなことを言ってもあなたたちには伝わらないと思うのできちんと説明したことはありませんが。好きイコール恋人になりたいという結びつきではなくただただ好きだから、芸能界で成功してほしいという願望が強いということもあるんだけど、でも世間一般的に好きといったら彼女になりたいと捉えられしまうんですよね。はいはい。なんでわかっていたのにこんな話しちゃったんだろ。すごくうれしかったから聞いてもらえるならたくさんの人に聞いてもらいたいって欲がでちゃったからか。だってすげーーーうれしかったんだもん!

 

「理想も高くなっちゃうしさ」

 

いや、もう、ほんとにうれしかった。だってこっちが自己満で送りつづけた迷惑極まりない手紙なのに気遣いの言葉をかけてくれた上にしっかりわたしが送った手紙だと一通一通、認識されていたわけで!しかもわたしが書いたということを認識してくれていたわけで!!通い詰めた努力が報われた!!とあの瞬間は思った。通っていれば自然と認知してくれるだろう無理矢理覚えさせるのではなく常に現場にいることで覚えてもらえたことがどんなにうれしいか。『毎日手紙書くの大変だったよね。』まではすこし眉が下がり気味だったのに『ありがとう』をくしゃりとした笑顔で言ってくれたのがどんなにうれしかったことか!たとえ毎日送られてきた手紙に辟易としていたとしても建前でお礼が言える気配り!えらい!すごい!さすが推し!そういうところが好きになったんだよね~。『毎日手紙書くの大変だったよね。ありがとう』。ん~、ほんと好き!最高!

 

「ますます彼氏できる機会逃しちゃうでしょ」

 

いや~~~…好き…だわ。うん。好き。めちゃくちゃいいやつ。最高の推し。みんなに同じ対応をしているだろうけど、ちゃんと一人一人のファンを大切にしているところがすごい。芸能人としてファンとの接し方が好みすぎる。本当にあれはうれしかった。ファンをしていてよかった。彼のオタクでよかった。は~~~最高だよ。最高の男だよ。何度思い出しても幸せに浸れる。わたしの番が来て、目があった瞬間に「あ!」って目が少し大きくなって、わたしが『今日は楽しかったです。先日の舞台も超楽しかったです!』って言ったら『毎日手紙書くの大変だったよね。ありがとう』って返してくれて。こんなこと言われるなんて予想外で、びっくりして何も言えなくなっちゃって。今の言葉のお礼を言わなくちゃ!!!と思ったから『こちらこそありがとうです!』と精一杯返したけど、もっと上手い言い方なんていくらでもあったのにな~~~。って、あの日から毎日のように記憶を再生し続けているけど全然飽きないし思い出す度に幸せになれる。オタクやっててよかった!!やば。話聞いてなかった。気付いたら本格的に彼氏の話になってた。

 

「楽しいことは悪いことじゃないけどさ、それは現実じゃないじゃん」

 

なんでこの話しちゃったんだろ。いろんな人に自慢したいほどうれしかったのもあるけど、さすがに人を選ぶから、中学生の時にジャニオタだった子なら理解があるかと思って話ちゃったんだろうね。でも今や彼氏もいるしすっかりジャニーズから離れてしまったよね。そうだよね。昔追ってたと言っても中学生だからせいぜいテレビ番組を観たり雑誌を買う程度でライブにも行けなかったもんね。その年ならよくある趣味のひとつだよね。ライブに行くこともなかったから、今のわたしのような直接会話できて、しかも相手が一個人として認識してくれるなんて全然違う界隈だよ。全然違う感覚だよね。たぶん彼女の中では中学生の時に担当に恋していたような気持ちを今のわたしが抱いている感覚なんだろうな。少し違うよ。たぶん伝わらないだろうけど、わたしがファンだから特別に接してくれているのをわかった上でお金を払っているからこういう対応をしてくれることをわかった上で、浮かれているんだよ。芸能人とそのファンの関係だからこそできるごっこ遊びをしているんだよ。それ以上踏み込もうと思わないし、この関係が互いに一番いい利益を生むんだよ。その意識を保っているよ、って言えばいいのかな。伝わるのかな。いや伝わったとしてもなんやかんや結びつけて彼女はわたしをガチ恋に仕立て上げるんだろうな。喜びを共有できると思ったのにな。勝手に期待してたのがばかみたいだな。大事な友だちに勝手に期待して勝手に失望して勝手に距離を置こうとしているなんて最低だな。でも距離を感じているのはお互いさまかな。さっきからずっと否定しか言わないし。さびしいな。

 

「だから、ほどほどにね」

 

「うん。そうだね。あはは」