ちわきにくおどる

そんな気持ちにさせてくれ

舞台「カプティウス」感想

「安西慎太郎一人芝居」とタイトルの前に銘を打たれたこの舞台。

「絢爛とか爛漫とか」でラストに15分くらい一人で小説の構想を話す演技を観ていて、すごく惹きつけられたのでいつか一人芝居観てみたいな~と思ったらたった数か月で叶ってしまいました。

 

簡単に舞台の概要を説明すると、安西慎太郎演じる「男」がただ一人、太宰治の『人間失格』を読んだ感想と自分の人生について独白する約85分間休憩転換なしの一人芝居。

 

誤解を恐れずに言うとつまらなくもないし楽しくもない。観終わったあとの疲労がすごい。それでも観たい。

安西くんが命を削るように芝居をする姿を思う存分至近距離で堪能できる。

それだけで十分だったし、役者・安西慎太郎のひとつの終着点を目撃している高揚感がありました。

 

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開演前とアフタートーク後は会場内撮影可。

 

舞台を四面を囲う客席で最前列に座ると、 1mもない距離で汗だくで声を張り上げて演技をしている安西くんと対面するので観るだけでエネルギーがいる。男が一人でしゃべっているのを85分間聴き続けるための集中力もいる。ましてや推しの一人芝居なのでオタクは一挙一動を深読みし続ける。初日は何も知らない状態で観るので一番体力を必要とした。高揚感が勝っていたのでそれほど疲労感はなかったですが。

 

初日に観た感想は、観た人によって感想が違うだろうし、響く部分が全く違うのだろうな、と感じました。

ちなみにわたしは最後に男は服毒自殺に成功していると思っていて、宗教演説よろしく、男が言っていた「死にたいという本能から逃れろ」という台詞が一番胸に響いて死にたいという思いを抱えながら醜いからこそきれいな世の中だと思ってがんばって生きていこう!と男に励まされたので、最後の最後に薬を飲んで倒れた男を観た瞬間は、「あんなに人に「生きろ」って語っておいて自分はきれい死ぬなんてずるい!!!わたしもきれいに薬で一発で死にたい!!!自分だけきれいに死ぬなんてずるすぎる!!お前もわたしを置いていくなんて!」と心の中でめちゃくちゃ暴れました。

周期的にPMDDど真ん中だったので希死念慮が普段より強くて、服毒で死ねた男がうらやましかったです。

でもこの舞台で「死にたい、という本能的な恐怖から逃げるのです。」という台詞を聞いて、憑き物が少しだけ落ちました。本来生物にとって「生」への執着が本能だとばかり思っていたので「死」の渇望も本能と言われたことで「死にたい」気持ちも肯定されたような思いになりました。「死は救済」ですもんね。

  

 アフタートークで下平さんはこの男は安西でも僕でもない、とおっしゃっていましたが中学生までの生い立ちがインタビュー等で聞いていた安西くんの生い立ちに近かったので、初日だけ悪友にそそのかされた初体験の部分は聞いていて、真顔でいなければいけない…と焦りました。距離が近いのもあって顔が熱くなっているのを感じて赤くなっていたら、と内心焦りました。普段しないけど時期が時期だったのでマスクつけててよかった。

 相手の女性の描写が一切なかったのでなんとも言えませんが、初日以降は「もしかしたら脅されていたのかもしれません」という台詞に胸を痛めていました。

また、「綾ですよ。言葉の綾」という時の間の取り方と鋭い目つきなのに口元には薄ら笑いを浮かべている安西くんと真正面から対峙した時は恐ろしさを感じ畏敬の念を覚えました。今まで共演者の方々はこんな化け物じみた演技をしてくる人と対峙してなおかつ対抗していたのかと思うと恐ろしくなりました。

 

さっきから楽しみにしていた舞台という割には、楽しくなさそうな感想ばかりですが、カプティウスを上演してくれて、この舞台を観に行くことができて本当によかったですし、約6年間、安西くんのお芝居を観てきてよかったと思いました。

舞台上で安西くんが台詞に詰まったり言い間違いをしたり台詞が飛んでしまったりするのは少ないのですが、今回ばかりは技術が追い付いていないようでわたしが観た中では一度もミスをしない日はなかったです。

それくらい「カプティウス」は難解な演出でしたし、それに挑んだ姿を見られた経験を得られました。

3万5千字という文字量もさることながら、細かく決められているであろう男の動線、仕草、至近距離で四方を客席に囲まれている圧迫感、客席でさえ熱さと酸欠を少し感じる場内。上記だけでもさまざまな技術を求められているのに、楽日のアフタートークで下平さんが言った、台詞をいう声の高低も全部決めた。この高さで言うと続く台詞が言いにく場合は二人で調整して音の高さを決めた。という話に驚きました。下平さんも一字一句、音程決めたのは初めてと言っていましたがそれを要求させる安西くんも相当信頼されているのだなと嬉しくなりました。偉大な俳優陣に比べたらそんなに上手くないとは言われていましたが。

さまざまな舞台に出演し、経験も積んできて、同年代の中ではトップレベルで演技が上手い(贔屓目です)安西くんが技量が追い付いていない状態で舞台に立っているのが驚きでしたが、そこに落胆はあまりなかったです。

「カプティウス」は安西くんの役者人生の中のひとつの到達点であり、新しい出発地点でもあると思うので、歴史に立ち会えている感覚がありました。

数年後あるいは十年後に再演もしくは続編など、この舞台が基軸かターニングポイントになればおもしろいなと思います。

 

毎公演アフタートークがあり、22日夜公演後に演出家の鈴木勝秀さんが出演してくださりましたが、その中で話してくれた

「この舞台を観に来てくれている人は世界人口の70億人に比べたらゼロに近いのだから、今この場で安西の舞台を観ていることをみなさん、誇りに思ってください」※要約

という言葉がすごくすごく嬉しかったです。

趣味で観に来ているだけだし、好きで観に来ているだけなので、自慢するようなものではないと思いながらもどこかで、この趣味に共感できない人に時間とお金の使い方を否定されて傷ついたことのある者にとって、この言葉は肯定という救いでした。

スズカツさんは滅多にお話を聞くことができない人なので、アフタートークでたくさんお話を聞けて貴重な体験でした。アフタートークの語り口が優しくて、さらに仕事に対する考えが素敵なので、ファンから観てもまたスズカツさんとお仕事してほしいです。

すごくよかったのでアフト後に覚えている限りのことをメモに残しました。記憶違いはすみません。

 

 

 

そして、23日千秋楽のアフタートークは演出の下平さんと安西くんが質問箱に寄せられた質問に回答していく形式でした。

こちらも覚えている範囲内でメモしました。

 

千秋楽は当日券に当選してなんとか入ることが出来ました。当選者を演出の下平さん自らが引くシステムだったのですが、当選発表前に注意事項のひとつとして、殺伐とした雰囲気になるのが嫌なので当たった方に拍手をお願いします、というものがありました。

そんな穏やかで優しい下平さんですが今回演出として、一人の役者が85分間ずっと喋っているのはどうしたって飽きる。それはどうしようもない。だからお客さんが足を組み替えたり、座りなおしたりと動きたくなるような間の取り方を入れた、どこかは言いませんがみなさんが動いたタイミングがそこだったらいいなと思います、と「狙った演出はなんですか?それは上手くいった実感はありますか?」という質問に答えていて発想が恐ろしいなと思いました。

そんなこともあり、観劇していて疲れる舞台だったのかもしれません。

 

テニミュで知って、心霊探偵八雲でこの人の演技を観たいと思って、色々な舞台を観続けてきたひとつの答えのような舞台でした。またいつかこの境地を体験したいです。